【雨の中の30km】

不安を引きずりながら長距離移動の日

雨が降りしきる中30kmちょっとの移動。

正直、足の事、膝の事、この先の事で頭がいっぱいでお寺さんのことはあまり記憶にない。

ゴメンナサイ!


が、そういえば阿波踊りのメッカだったな!とか、駐車場の謎の販売機などには目が行く。

あれなんだ!?

なんと

手羽先!

なんとなくニヤニヤしながら駐車場を後にする。

なんであんな殺風景な駐車場の奥に手羽先なんだろ?

ビール片手にたむろする若者たちへのアンチテーゼか?!

そんなくだらない思考回路が不安を消そうと暗躍する。

しかし足取りは特に重くもなく、この旅が始まっていらい30km歩く事に不安を感じない日だったように思う。

【奇跡の宿ふれあいの里さかもと】

※登場する方言は私の脳内変換なので正しくありませんご容赦を。

そして時間通りに本日の宿へ向かう。

今日泊まる所は

「ふれあいの里さかもと」

道の駅まで送迎してくれるシステムがあり徒歩お遍路としては助かったりだ。

女将「お待たせ~~!」

女将「タオル使ってね~!!」

女将「大丈夫なら出発するよ~!?」

初っぱなから

すごく気さく!!

冷えた体に優しさが染みる。

後ほど知るが女将さんが直々にお迎えに来て下さった。素晴らしい送迎だ。

宿までは車で10分くらいだが車内で色々なお話をして下さった。

私が気になっていたのは明日迎える「鶴林寺と太龍寺」の難所である。

最初にして最大の難関と言われる「焼山寺」は雨天時は危険なので飛ばして進む人もけっこういるとのことだったので、鶴林寺と太龍寺はどうなのだろう?と気になっていたのだ。

焼山寺を飛ばした人は結願手前で戻ってきて登山を完遂するとのこと。体もお遍路を乗り越えてできあがってるのでさほど苦労をしないというクレバーな手法もあるらしい。

私「この雨、明日晴れますかね~?
雨が降ったらみなさん登ります?」

女将「こんな雨はね、タクシーで行ったらええ!」

私「おうぅ!?」

予想外の答えだった。

女将「地元の人間がそう言うんだからそうやで!」

弘法様もさすがにこんな雨で登れなんてよう言わん思うわ!

女将「無理して怪我したり、遭難したり、地元の人に迷惑をかけてまで登るのもどうかと思うなあ!」

私が思っていたことと相違が全くないのだが、なぜか意外な気持ちの私がいた。
というのも、心のどこかで

何が何でも歩くべし

ということが脅迫的に心にあったことに気づいた。

心理学的に言えば、強迫症状とか、神経質症状というような言い方をするのだがまさに目から鱗だった。

女将「中にはこんなお客さんいたんよ~」

女将「道の途中で動けなくなって、宿に電話よこしてね、迎えに来いっちゅーのよ。でも車でも入れないし場所もわからない。なんとか地元の人に頭を下げて協力してもらって迎えに行ったんよ。そしたら今度は全く同じ場所まで送れっていうわけ。何が何でも一筆書きじゃないとダメだっていうわけなんよ。弘法様もそんなことしろってよう言わん思うわ~。」

まさにそう思う。
地元の人の協力あってお遍路という舞台を歩かせてもらっているだけに過ぎない。

私「うーん… その方に必要なのはお遍路じゃなくて病院に行くことだと思いますね。」

私はカウンセラーの資格を持っているのだが、心理カウンセラーの立場としてはその通りだと思っている。
その神経症を治すべきだと。

女将「もうね、先に着いたお客さんは明日のタクシー予約してはるそうやから、もし明日が雨なら相乗りさせてもらえるか、ご飯の時に聞いてみたらええよ!」

中々に考えさせられる内容で、そうこうしているうちにあっという間に宿に着いた。

至れり尽くせりの中で濡れた靴を乾かせてもらったり、宿帳を書いたりしていざチェックイン!

あれ?何だこの宿?

うおおおおおおお!!!

学校~!!!!!

テンション爆上がりである。

どうやら廃校をリフォームして使われてるようだった。

この忍び込む感覚!

この悪さをするときの子供のような!

何ともいえない背徳感とノスタルジー!

甘酸っぺぇ!!!



ホスピタリティもMAXで、しかもスタッフの皆さん全員温かく、かつなんでこんな最高のロケーションなんだ!!

子供の頃はクソガキだったので、先生には怒られまくり、殴られまくり、モテモテの鼻垂れ小僧だったことは想像に難くないでしょう。

IQの高さに反して成績は最悪です!
(※自慢じゃなくただのADHDです)

女の子とイチャつきすぎです!

授業中に女の子のパンツ覗かないで下さい!

単身赴任で父親がいないからこんな子供になるんじゃないですか!?

などと先生に言われ親が激怒して校長に説教をしに行った事は懐かしい思い出。

そんな甘酸っぺぇ思い出を振り返りながら宿を徘徊する。

立派なお風呂を一人で使わせてもらえるというシステムで、作りも多分お遍路が楽なように作ったんだろうなという足を洗い安いようになっていたりと最高である。

お部屋も広く綺麗でかつ金剛杖置きまである素晴らしさ。

なんて居心地がいいんだ!

温かさってこういうことなんだなと心に染みた事は言うまでもない。

そして夕食時

あ、そういえばタクシーの交渉をしなきゃ!

先客が一人いたのだが、この人かな?と様子を伺っていると…

ドン!ガタン!ガチャン!

ビールちょうだい!!

物音がデケえ。笑

ちょっと強面だし。汗

が、こういった場面は得意というか経験が沢山あるのでスーっと話しかけ入り込む。

ビールください!

俺も飲むのかよ!笑

酒には酒だ!

と思いながら話しかける。

イザ話しかけてみたら色々と教えてくださった。

ハセさんという人で、肺に病気がありドクターストップを押し切って公共機関を使って数日お遍路を回っているそうだ。

ちょっと歩いてはみたが、やっぱりキツいな~!思ったよりキツいよ!とのこと。

会話にも独特なリズムと空気感はあるが、悪い人ではない。
むしろ夜のお店好きな気の良いおじさんという感じだった。

シレっと会話に挟む交渉。

タクシーおK!

これで私の今日のミッションは完遂できた。

そしてちょっとお遍路中にしたら飲み過ぎなぐらい飲んでしまった。反省。だがこれぐらいの量でどうにかなる自分でもないのでまあいっか!

【奇跡のSP鴻本さん見参】

そしてご飯の後にお会計を済ますのがお遍路系の宿では慣例だそうでお支払い。

すると女将でなく、男性が姿を現した。

謎「そんな飲んで大丈夫かね?」

な、何やつっ?!

あ、アサシンかっ!?

目の奥が重い。というか深い。

キッっと見つめられると罪悪感すら覚える。

そんな男性だった。

まさに

深夜のSP

そう思ったのは私がちょっと飲み過ぎたかなという罪悪感が反射されてただけなんだけども。苦笑

イザ話してみると、とても温かく、そして心のこもった話し方をする方だった。

深夜のSPこと 鴻本さん
どーん!

※この時はもっとアサシンぽかったよ。笑

私は自分の直感が「この方は温かい」と思う人に、「自分の波長に合う方」に自然と近づいていく習性があるのだがこの時もそうだったように思う。

ここから色々なお話を聞かせてくださった。

酔っ払いすぎてアルバイトの女の子に絡むお遍路の話、この町で何かできないかと音楽協会を立ち上げて活動していること、合間に夜だけこの宿のお手伝いをしていること、カフェを営んでる事など多岐にわたる。

鴻「自分にも何かできないかな~?と思って音楽を立ち上げたり。」

鴻「なんとか町をよくしたいな~と思ってなあ。」

鴻「カフェなんかもやっててな~今度遊びおいでえ。」

凄く町の事、そして人の事を想っている方なんだなと伝わってくる。

今度はカフェにも宿にまた遊びに来たいと心から想った。

「カフェ 風の駅 坂本」



鴻「ほんでの」

CD出しとるんよ

な、なにー!!

買うぜ兄貴!

二つ返事で買った。

というのも、私は昔は音楽っ子でバンドマンだった。本気でバンドをやろうと6年ほど活動していたことがある。
作詞作曲ギターボーカルという欲張りスリーピースバンドをやっていた。
結果的には私は音楽を諦めたと同時に音楽を辛くて聴くことができなくなってしまった経緯があるのだ。
(今は時を刻み普通に聞けるが楽器は止めた)

ということもあって、年齢を重ねて音楽を真摯にやっている人はリスペクトと共に興味があるからだ。

お遍路のお守りにします!

早く聞きたいけど、CDなので家に帰らないと聞けないのでとりあえずはお守りとして愛でる事にした。

こうして夜が更けて行き

ほっこりとして眠りに落ちていった。

晴れてふれいあの里さかもとの学生証もGET

こんな平和な夜だが

お遍路の行き先を左右するような闇が迫っていることを、この時の私はまだ知る由もなかった…。

Fin.

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